善行

S駅からH駅へ向かう会社からの帰路。
オレは6人がけの座席に座っていた。
6人がけの席は満席であった。

3つ目の途中停車駅Nでオレの両側の客が降りていった。

入れ替わりに乗ってきたのは女子大生と思われる二人連れであった。
二人ともスマホを手にし、なにやら話している。
にこにこ笑いながら乗り込んできた。
先を歩いてきた一人はオレの右隣に座った。
もう一人はオレの前を通る時、一瞬だけ歩みを止めた。
歩みを止めたのはほんの一瞬で、すぐにオレの左側にすわった。

　＊＊＊

2つ目の停車駅Tから、オレの前に中年の夫婦らしき男女が座っていた。
夫婦だろう。
年のころも近く見えるし、アレが浮気であったらオレは世間を疑う。
なぜなら奥さんらしき女性は


←コイツに似ていたからだ。






コイツ↑に似た女性はワンピースを着ていた。
薄いベージュでスカートのすそは大きく広がっている。
大き目の赤い花柄で袖は極めて面積の狭い半袖だった。
1970年代に買った物をそのまま着ている…ワケないか。

オレは思った。
『こいつらもセックスするんやろか？』

向かって左側に座る白髪頭の痩せたオヤジが
花柄ワンピースのおばはんの股間に顔をうずめて、
白髪混じりのマンコを不器用にねぶる姿を想像し、
オレは列車の床に大量に嘔吐した。
何度も激しく吐きまくったため、
H駅についたころには胃液も涸れていた。

邪な想像をするものではない。

　＊＊＊

女子大生がオレの両側に座ったのはそんなヨコシマな想像がピークに差し掛かってきたころだった。
後から歩いてきた方がオレの左に座った時、オレはその子に話しかけた。
「（席を）換わろうか？」
女の子はYesもNoも言わず、目を少しだけ丸くした。
オレはムカつき、その子の顔面をブン殴った。
女の子の頭は殴られた反動で背後の窓に当たってワンバウンドした。
女の子の両側の鼻の穴から血が出ていた。
眉毛は「ハ」の字に歪み、目からは液体が流れていた。
あ、涙か。

オレはもう一度聞いた。
「（右に居るのは）友達？」
女の子はハの字眉毛の上目遣いで、素早く2回うなずいた。
そうだよ。それでいいんだ。やれば出来るではないか。
もう一度聞いた。
「換わろうか。」
女の子はもう一度うなずき席を立った。
オレは入れ替わる際に尻を1回触り、左の席に移動した。

一日一善！

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